金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「――曽川くん、約束は守ってもらえますね?」
さっきの派手な女子生徒の腰に腕を回して、体育館脇の扉から外に出ようとしていた先輩に、先生が声を掛ける。
そうだ、先生が勝負を挑んだのは、先輩が二度と私に近づけないようにするため……
それをうやむやにして逃げようとしていた先輩には、怒りを通り越して呆れてしまう。
「……わかったよ、もう二年の教室には行かない。それでいい?俺この子とメシ食わなきゃ」
「はい、それでいいです。約束ですよ」
「へーへー」
去り際までチャラい先輩の姿を見ていたら、少しの間でも彼を本気で好きだった過去の自分が恥ずかしくなった。
初恋も、ファーストキスも、あんな人に奪われちゃったんだ。
後悔先に立たずというのは、このことだ。
だけど……
先輩に傷つけられたはずの心の一部分が、今、ものすごい回復力でむくむく膨れ上がってる。
まさか、そんな……
だって相手は先生だよ……?