金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「……三枝さん?」
「わ、私、午後も忙しいしお弁当早く食べないと!有紗ー!」
助けを求めるようにその姿を探すと、意外に彼女は近くにいて私たちを眺めていた。
「有紗、教室戻ろう?私もうお腹ぺっこぺこで!」
「あ、そういえばあと少しで休憩終わっちゃうね。急いで食べなきゃ」
もっとちゃんと恩田先生にお礼を言いたかったけれど、これ以上ここに居たら心臓が疲れて午後のリレーに差し支える。
私は有紗と共にバタバタと体育館を後にした。
教室に戻ると二人でお弁当を開き、「いただきます」と言ってから箸を持つ。
でも、ぱくぱくおかずを口に運んでいく有紗と対照的に、私は一口も食べ進めることができなかった。
「……千秋、食べないの?」
「食べたい……はずなんだけど」
さっきまであんなにお腹が空いていたのに、今はなんだか満腹だ。
時間が経ち過ぎて、空腹のピークが過ぎちゃったんだろうか。
「……千秋さぁ」
「うん?」
「恩ちゃんに……惚れちゃったんじゃない?」
あまりに直球な親友の一言に、私は動揺して箸を落としてしまった。