金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

「あ……っ!な……っ!」


有紗、なんで、が上手く発音できないほどに慌てる私を見て、彼女はますます確信したようだった。

ふむふむとわざとらしくうなずき、最後の卵焼きを口に放り込んでからこう言う。



「だって千秋の目ハートになってたし」


「人間の目、は、ハートにはならない……もん」



比喩だということはわかってる。

でも、どうしても認めたくなくてそんな無駄な反論を試みる。


すると有紗は少し寂しそうに笑って、お弁当のふたを閉めながら呟くように言った。



「私は別にどっちでもいいんだけどさ。でも、千秋がまた傷つくことになったら嫌だなって……恩ちゃんは先生だし、両想いになれる確率なんて……」



――――ほとんど、ううん、絶対にない。


それはわかっていても、あの笑顔が頭にこびりついて離れない。


曽川先輩と付き合って、痛い目を見ているのに……恋心には、学習能力がないみたいだ。


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