金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
――ああ、どうしよう。
今さら過ぎるけど、私は自分のスタート位置に立ってバトンを待ちながら、自分の出場する競技をリレーにしたことを後悔していた。
リレー以外の競技は並行して行われるから、担任の先生はすべての競技を見るわけではない。
だけど、リレーは大会の一大イベント。
生徒も、先生も、みんなが自分のクラスを応援するために陸上競技のトラックを囲んでいる。
きっと、恩田先生も見てる……
転んだらどうしよう。
バトンを落としたらどうしよう。
不安な気持ちが全身を駆け巡り、完全に怖じ気づく私の元に、前の走者……同じクラスの土居(どい)くんが、一位で駆けてきた。
「三枝……っ」
「――うんっ」
右手でしっかりと受け取ったバトンを左手に持ち変えて、私は走り出した。
幸い二位との差がかなり開いていて、このまま無事アンカーにバトンを渡せば、うちのクラスの優勝はほぼ確実になる。
優勝したら、きっと先生喜んでくれるよね……
私のために苦手なバスケを頑張ってくれた先生を、私も喜ばせたい。