金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「せんせー、怪我人」
「はいはい、あらま、派手にやったわねぇ!」
土居くんは私を保健室の先生に預けると、自分はすぐに部屋を出ていってしまった。
……もう、お礼を言う暇もなかったじゃない。
無事に手当てをしてもらい、大きなガーゼを貼り付けられた足を庇いながらひょこひょこ廊下を歩く。
そんな私の前に、血相を変えた恩田先生がやってきた。
「三枝さん!怪我は?ちゃんと手当てしてもらった?」
「あ、はい。見ての通りです。すいません、大事なリレーで転んじゃって……」
ぺこりと頭を下げると、先生はまじめな顔になって私を見た。
「渡瀬さんに聞いたんだけど……お昼、なにも食べてないんだって?」
「え……?はい、まあ」
「どうして……それじゃあ力が出せなくて当然ですよ」
どうして……って。
あなたのことで胸が一杯で……なんて、言えるわけもなく。
「たぶん……暑さのせい、です。夏はいつも食欲落ちるんで……」
そんな適当な嘘で、私はその場を切り抜けようとしたのだけれど……