金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「――千秋、足平気?」
「うん、痛いけど自転車こげないほどではない」
スポ大の日はほとんどの運動部が練習を休みにするため、久しぶりに有紗と並んで自転車を走らせる帰り道。
夕方なのにまだまだ元気な初夏の太陽が、私の額や背中に汗をかかせていた。
「あのさ……恩ちゃんのこと、なんだけど」
「うん?」
「……千秋が転んだとき、自分まで痛そうな顔してた」
痛そうな、顔……
そりゃあ、あれだけ派手に転ぶのを見たら、誰だってそうなるんじゃないかな。
有紗が何を言いたいのか計りかねて黙っていると、有紗は真顔で進行方向を向いたまま、こんなことを言う。
「千秋が土居に連れていかれるのを見たときは……恩ちゃん、それよりもっと痛そうな顔してた」
「……え?」
「気のせい、かもしれないけど……でも、恩ちゃんのあんな顔見たの初めてだった。先生じゃなくて、男の人の顔してた」
さっきまでとは違う汗が、全身から噴き出す気がした。
そんなわけ、ないよ。
それじゃまるで先生も……