金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
土居くんに連れてこられたのは、ひとけのない校舎裏。
地面に生い茂るムラサキツユクサが、紺のハイソックス越しに私の足をくすぐる。
教室を出てからここまで無言だった土居くんは、立ち止まって向かい合ってもなかなか口を開かない。
なんだか気まずくなった私は、とりあえずこの間のお礼を言おうと口を開いた。
「……土居くん、スポ大の時はありがとう」
「あー、別に。もう足はいいのか?」
「うん、かさぶたもずいぶん小さくなったし痛みはもうない」
「そっか」
……また、沈黙。
このままじゃ何も話さないうちに雨が降ってきてしまいそう。
そう思った矢先、頬に冷たいものが触れた。
「あ、もう降ってきた……」
「……三枝、こっち」
「え?」
ぐい、と腕を引っ張られて、少し突き出した校舎の二階のベランダ下に二人で入った。
あまり、広くはない空間。
少し動いただけで、肩と肩が触れ合う。