金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「あのさ」
「うん」
「……好きなんだけど」
一瞬、頭が真っ白になった。
好きなんだけど。
……って、え?
思わず横を向くと、土居くんが真剣な眼差しで私を見ていた。
「本当はスポ大の日に告ろうとしてたんだけど……タイミング逃した。
で、それなら夏休み前とかでもいいかと思ったんだけど、最近なんか三枝元気ないから気になって」
「土居くん……」
返事をしなければならないのに、うまく言葉が出なかった。
好きな人が居るって、正直に言えばいいのかな……でも、先生を好きな気持ちを、簡単に誰かに話したくはない。
「……ごめん、なさい」
ただその一言で、諦めてくれればいいなって……私はずるいことを思った。
だから、土居くんが何かを言うまで黙って、次第に強くなる雨の音を聞きながら、それに打たれて揺れるツユクサの紫をじっと見ていた。