金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「理由は?」
「え……」
「まだ、あの派手な先輩のこと引きずってるのか?」
派手な……曽川先輩のこと、かな。
きっと土居くんも、いつかの先輩と有紗の言い合いを見ていたんだろう。
……でも、断った理由は先輩のことじゃない。
「先輩のことはもういいの。むしろ二度と関わりたくない」
「じゃあ、他に好きなやつがいるとか?」
「……今は、いないよ。好きな人なんて」
私は嘘をついた。
いると言っても、それが誰かと聞かれたら答えることができない相手だから……
「いないなら、諦めなくていいんだな?」
隣からひんやりとした手が伸びてきて、私の手首をつかんだ。
戸惑って彼を見上げると、雨に濡れた前髪からのぞく瞳が、私の姿をまっすぐ捉えていた。