金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「土居くん……?」
「好きな人いないなら、俺にもこれから可能性があるってことだろ?」
「え……と、それは……」
どうしよう。逃げたい。
でも、腕をつかまれているからこの場を動けない。
「三枝、いつも何かに悩んでるような顔してるだろ。一時期は直ったような気がしたけど、スポ大の後辺りからまた浮かない顔になった。……俺じゃ、それを解決してやれない?」
きっと、優しさから言ってくれているのだということはわかる。
だけど、私の悩みの中心に居るのは恩田先生なのだ。土居くんに相談できるわけがない。
それに……
いつもと違う目をした土居くんが、少しだけ……怖い。
まるで……かつての岡澤みたいで。
「手、離して……?」
「三枝がちゃんと答えれば」
「ちゃんとって言われても……」
曖昧な返事しかしない私の手首を、土居くんはさらに強い力で握る。
やだ。
痛いよ。
怖いよ……
「や、めて……」
気づけば私は涙をこぼしていて、その場にしゃがみこんでしまった。