金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「――――そろそろ、帰りなさい」
珍しく命令口調で言う先生に、私は従うしかなかった。
まだ雨は降っているけど、今日は自転車で帰ろうと思った。
ぐちゃぐちゃな頭を冷やして、整理して……期待でふくらみかけてた恋心も、冷まさなくちゃ。
教室にカバンを取りに戻って自転車置き場まで行くと、目の奥が熱くなってきたから慌ててそれを我慢する。
……泣くな。
元々叶う可能性なんかゼロに等しい恋だったんだから、大丈夫。
大丈夫だよ。
大丈夫……だってば。
「大じょ…ぶ…なの、に……」
なんで……泣けてきちゃうんだろう。
こんなに、苦しいんだろう。
先生を好きになったばかりの頃、片想いでいいなんて言っていた自分は甘かった。
私は、雨で涙を洗い流すように上を向いた。
……恋って、つらいんだ。
こんなに胸をかき乱されるものなんだ。
こんな気持ちはいっそ、捨ててしまえば楽になるのかもしれないけど……
簡単に捨てられないのもまた、恋の厄介なところだ。