金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
“迷ったら、行け!”
そんな有紗の言葉に後押しされて、私は学校が終わると本当に先生の家の前まで来てしまった。
手には、駅前の花屋で買った、白いカラーの花束。
夏らしいし、お見舞いとしても大丈夫な花だったはず……
緊張しながら一歩踏み出し、家のチャイムを鳴らす。
……出てこない。
もう一度押してみる。
……やっぱり、出てこない。
泥棒みたいで気が引けたけど、先生が倒れてでもいたら一大事だと、私は緑溢れる庭に回って窓から家の中をこっそり覗き込んだ。
そこに面していた部屋は、和室。
幸い障子は開け放たれていたから、部屋の様子ははっきりと見ることができた。
「……居ない」
畳に敷かれた布団は脱け殻状態で、先生の姿はどこにもない。
どこか別の部屋に居るのか、それとも……
「――――三枝さん?」
「わっ!!」
急に背後から声を掛けられ驚いた私は、振り向いた拍子に窓に背中をぶつけた。
「痛っ……せん、せ?」
どうして、家の中じゃなくて外から……