金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

「ずいぶん堂々とした泥棒が居るもんだと思っていたら、うちの学校の制服を着ていたから驚きましたよ。
今日はどうしたの?なにか悩みごと?」



昨日、過去を告白した時の表情とは違う……いつもの穏やかな笑顔を浮かべる先生。

手にぶらさげたコンビニの袋から、缶ビールが覗いている。


これを買いに行ってたのか……

お酒を飲めるってことは、風邪は治ったのかな……?



「……お見舞い、のつもりでしたが元気そうですね。もう風邪はいいんですか?」



先生は、目を丸くして何度もまばたきをした。



「心配して来てくれたんですか?」


「心配っていうか……先生の風邪の原因が昨日の雨なら、私のせいかもって思って。もしそうなら謝りたくて……」



最後の方は恥ずかしくて小声になってしまった。

だって、謝るなら先生が学校に来てからでも遅くない。

花まで買ってわざわざここに来たのは、ただ先生の顔が見たかったからだ。

いつもなら会える教室で、今日は会えなかったから。


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