金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

「……ありがとう」



優しい声が降ってくるのと同時に、頭の上にあたたかな重みを感じた。

おずおずと視線を上げると、笑顔の先生が私の頭を優しくなでている。


子供扱いされている気もしたけど、それ以上に嬉しくて……なでられてる間中ずっと、頭のてっぺんに神経を集中させていた。



――お見舞いの花も渡して、帰ろうとする私を、先生は今日も「送る」と言った。

風邪がぶり返したら困りますと断ったのに、聞き入れてくれない。



「昨日の話を覚えているなら、送らせて。……僕はもう後悔したくないんだ」



憂いを帯びた瞳でそんな風に言われてしまったらもう断れなくて……

家に着くまで一緒にいられる喜びと、先生の過去が気になる気持ち。

そしてどうしたら先生を助けられるんだろうという疑問でいっぱいになりながら、まだ明るい夏の夕暮れを先生と歩いた。


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