金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

どう反応すればいいのかわからなくて私は黙り込む。

私は杉浦くんを見たことがないから実感が沸かないし、当の本人が居ないから返事もできない。


なにより、好きな人の口から他人事のようにそんなことを言われるのはとてもショックだ。



『モテますね、三枝さんは』


「別にモテてなんか……」


『曽川くん、土居くん、杉浦くん……それにある意味岡澤先生だって』


「――やめてください!」



思わず、声を荒げてしまった。

岡澤のことまで言うなんて、悪ふざけにも程がある。

どうして、そんな風に言うの?

なんだかいつもの先生じゃないみたい……



『……ごめん。いらないことを言いました』



……ほんとだよ。

誰に好かれようと、私の好きな人は先生だけなのに。



「……いくらモテたって、本当に好きな人に好きって思ってもらえなくちゃ意味、ないです」


『そう、ですね……きみの言う通りだ』



苦笑するように言うその声は、とても寂しい響きになって私の鼓膜を揺らした。


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