金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
そんな声で楽しくもないのに笑うのは、先生はもう、好きな人に好きと言ってもらえないから……?
もう二度と、相思相愛にはなれないから……?
そんなことを思い付き、ズキンと胸が痛む。
『……三枝さん。今、まわりにお家の人はいる?』
ふいにそう聞かれて、私はぐるりと部屋を見渡した。
お父さんはまだ寝てるし、お母さんは窓の向こうで庭の花に水をあげている。
「近くにはいませんけど……お母さん呼びますか?」
『いや、そういう意味じゃないんだ』
「…………?」
しばらく何か考えているような沈黙があって、それから先生はゆっくり、こう言った。
『――――夏休みになったら、一緒に海に行ってもらえませんか?』