金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「海……?」
『はい、海です』
「私が一緒に行くことで、先生の助けになるのなら……行きたい、です」
『……ありがとう。正直、僕は海が大嫌いなんだけど、三枝さんが隣に居てくれたら、なんとなく大丈夫な気がするんだ。それを、試させて欲しい』
海が嫌い……そこに何か先生の抱えるものを明らかにする鍵がある気がして、私の心臓が大きく波打った。
それに、私が隣に居てくれたら大丈夫って……どういう意味だろう。
勝手に嬉しい方向へ、解釈しそうになる。
「私でよければ、お供します。どうせ部活もしてない私は夏休み暇でしょうし」
……こんな言い方がしたいわけじゃないのにな。
先生に呼び出されたら、海でも山でも世界の果てまででも、どこだって飛んでいけると素直に言えない私。
『それならよかった。詳細はまた学校で伝えます。』
先生と電話を切った後で、私はすぐに有紗にメールをした。
“夏休みに先生と海に行くことになった”
これだけ書くとまるでデートみたいだ。でも、実際は違う。
浮かれていないで、先生を楽にさせてあげられるように……頑張らなくちゃ。