金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
だけど……そんなに大切な人を偲ぶためなら、どうして関係のない私を連れて行くんだろう。
私が恋人なら、たとえ教え子だとしても女の子と一緒に居られるのは嫌だと思う。
どうして一人じゃないの、と悲しくなるかもしれない。
「………………」
「………………」
それから二人、蒸し暑い部屋で向き合いながら、黙っていた。
窓の外に目を向けると、暑さなんかものともせずに部活動に精を出す生徒たちの姿が。
あ……土居くん、だ。
その中で、陸上部の土居くんが高跳びのバーをひらりと背中で越えるのが目に入った。
綺麗なフォーム……
彼は私を好きだと言ったけれど、私がいなくてもあんなに高く高く飛べる。
……でも、目の前の恩田先生は。
優しい笑顔の裏でなにかに囚われて、いつも苦しそうだ。きっと、今はまだ、飛べない。
――私は先生のそばにいたい。
亡くなった先生の大切な人が悲しんだとしても、先生を一人にしたくない。