金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

先生は私を退屈させないよう、車内に色んな小道具を用意していた。

流行りのアーティストのCD、たくさんのお菓子、なぜだかルービックキューブも……



「――僕、それ得意なんです」



私が適当にカラフルな立方体をもてあそんでいると、先生が前を向いたままで言った。



「これですか?私はいつまで経っても色を揃えられそうにありませんけど」


「パターンがわかれば簡単なんですよ。あとで、教えてあげます」



やった!と声を上げそうになるのをぐっとこらえた。

ルービックキューブを教わるくらいで嬉しいなんて言ったら、先生は笑うかな。


そんな小さな約束でも、私にとっては大きな幸せなんだよ、先生。




――――海岸線が見えてくると、私は先生に断ってから窓を開けた。


潮の香りが鼻をかすめ、それを運んできた風は私の髪を荒っぽくなびかせる。



「海なんて、久しぶり……」



特に深い意味はなかった。けれど私はそう言ったことをすぐに後悔した。


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