金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

「僕も、久しぶりです……何度か来ようとしたけど、いつもすんでのところで引き返してしまっていたから……」



そう言う先生の瞳はさっきまでと違う、輝きを失ったようにくすんだ色をしていた。


……もう、デート気分はおしまいにしなきゃ。

今日の目的は、先生をもっと知ることなんだから……これくらいで悲しい気持ちになっていたら、持たないよ。


私はそう言い聞かせ、自分の心までが暗く沈みそうなのを、なんとか食い止める。


人の多い綺麗な砂浜のビーチとは少し離れた場所の駐車場に車を止めると、先生は後ろの座席からカサリと音を立てて何かを取った。


私も車を降りてみると、先生の手には夏らしいヒマワリの花束があった。



「……ヒマワリの花言葉を知っていますか?」


「いえ、知りません……」


「私の目はあなただけを見つめる、です」



先生はそう言って、スタスタと前を歩いて行ってしまう。

あなただけを……それは聞くまでもなくきっと、先生の大切な人のことだ。


先生は、それを決意したくて、ここに来たの……?

もういない人を、これからも見つめ続けるって。


そうだとしたら、私を連れて来た理由は、証人になってもらうためとも考えられる。


私を、先生と彼女の、悲しくて尊い恋物語の目撃者にするために……


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