金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

――――海って言ったら、海水浴をする砂浜か、小さな生き物のいる岩場のイメージだった。

けれど、先生に連れて来られたのは高い崖の上。


サスペンスドラマの最後で登場するような……断崖絶壁という言葉がぴったりの場所だった。そして私の胸に、嫌な予感が広がる。


どうして、ドラマの最後に犯人はこんな場所に来るのか……その答えが一つしか思いあたらないから。



「…………」



私は黙ったまま、遠くの水平線を眺める先生の隣に立った。

足元には、置いたのか落としたのか、それとも供えたのか……ヒマワリの花束が風に揺れている。


そして、しばらく躊躇してから意を決して、だらりとぶら下がった先生の左手に、そっと自分の手を重ねた。



「三枝さん……」



驚いたような声が降ってきたけど、気にしない。私は握った手に力を込めて、ただただ願った。


先生の気持ちが一生海にとらわれたままなんて、いやだ。


もう、自由にさせてあげて下さい。


先生はこのままじゃ、ずっと幸せになんかなれない。


お願いだから、彼に自由を…………



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