金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

私は、もう片方の手も先生の手に重ねて、包み込むように握った。

少しでも先生の勇気になれたらいいって、それだけを考えながら……



「……小夜子は」



先生の、声が、手が、震えている。

顔を見上げると、涙で濡れた瞳が私を映していた。



「小夜子は、沖縄の海で死にました。新婚旅行の、最終日の朝でした」



それを言うのと同時に、先生の頬を一筋の涙が伝った。



新婚、旅行……

普通なら、結婚式を終えた二人が、とても幸せな気持ちで愛を深めに行くための旅……


うちの父と母だって、未だにその旅行が楽しかったと思い出話をすることがある。


そんな、二人の素敵な思い出を作るはずの旅行の最中に……


先生は、最愛の人を……


最悪の形で、失っていたんだ――――……



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