金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
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秋人へ
私、ずっと考えていたことがあるの。私は、あなたにはふさわしくない女なんじゃないかって。
秋人には幸せをたくさんもらった。結婚式も、旅行も、楽しくて仕方がなかった。いつものデートだって、私にとっては素敵な思い出で、どれを取ってもキラキラ輝いているの。本当よ。
秋人と過ごした時間は、人生のうちで一番楽しかったって、断言することができる。
だけどね。私はあなたに何をしてあげられた……?
いつも変わらない優しさと、愛をくれたあなたに、私はなにも、返せるものがない。
だって、そうでしょう?秋人は、昨夜私を抱いて、どう思った?
なにも感じない、ううん、感じるのが怖くて身を硬くしているばかりの女を抱いて、むなしかったでしょう?
私、秋人の行為なら受け入れられるって思ってた。だけど、実際はそうじゃなかった。
きっと、一生私はこのままなの。裸で抱き合う喜びを分かち合えない、女としての部分が死んでしまっている人間なの。
だからね、秋人。あなたには、もっと別の、普通の女性と幸せになって欲しい。
あなたに似た子供をたくさん産める、強くてきれいな女性を選んで、幸せになって欲しい。
それを自分の目で見たくはないからこんなことをするなんて……勝手よね?
でも、私を愛してくれた秋人の記憶だけを持って、幸せなまま逝きたいの。
こんな勝手な女のことは早く忘れて、仕事も恋愛も、秋人らしく頑張って。
秋人に出逢えて、よかった。
好きよ、秋人。
愛してる。ずっと。秋人だけを。
さよなら。
小夜子
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