金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
先生が見せてくれた手紙は、悲しい悲しいラブレターだった。
ところどころ滲んで掠れた文字は、どちらの涙のせいなのかわからないけれど……
きっと先生と、小夜子さんと、二人分の涙。
私はそこに自分の涙が混じらないように、上を向いた。
この手紙にとって、私の涙は不純物だ。
いくら私が先生を好きでも、この時のふたりの色んな想いを私の涙で汚してはいけない。
――目を閉じて、強い夏の日射しが涙を乾かしてくれるのを待つ。
けれど悲しみは津波のように次々押し寄せてきて、乾く前に新しい涙が生まれてしまう。
「――――遺体は、見つかっていないんです」
いくらか落ち着いた声に戻って、先生が語る。
「だけど、地元の人もめったに行かない、ここよりもっと高い崖で、小夜子の履いていたサンダルが見つかりました。それから、かぶっていた白い帽子が……真下の岩場に引っかかっていました。
警察の人は、自殺に間違いないと、言いました」