金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

「それからしばらくは仕事を休んで、沖縄で小夜子を探しました。
自殺をしたふりをして、本当は生きてるんじゃないかって……生きていて欲しいって、それしか考えられなくて。

だけど、小夜子を見た人は誰も居なくて……僕は事情を知った自分の家族に心配されて、無理やりこっちに帰って来させられました。

通夜も葬儀も、その時には終わっていました。僕は小夜子の家族に、自分の娘を殺した男と思われているようで、何の連絡ももらえませんでした。彼女の墓がどこにあるのかも、知りません。

だから……せめて小夜子の眠っている海を訪れたいと思ったのですが、いつも足がすくんでしまって……最近では、海に行くことさえ諦めていました」



でも……と言って先生が私を見た。


大きな手がスッと伸びてきて、その親指が私の涙を拭う。



「今日、ここへ来れたのは間違いなくきみのおかげです。さっきも言ったけど、本当にありがとう。そして、ごめんなさい。色々、聞き苦しい話を聞かせてしまったこと……」


「そんなの、いいです。全然、いいです……私は、先生さえ元気になってくれたらそれだけで……」



「――三枝さん」


「はい」


「今日のことは、誰にも言わないと約束できますか?」


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