金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
私はこくこくと、頷いた。
「もちろん、誰にも言いません……絶対」
「……それじゃ、これから起きることも秘密にできますね?」
「は、い………?」
これから、起きること……?
――突然、ふわりと、後頭部にあたたかい何かが触れた。
それが先生の大きな手だと気付くのに、少しの時間がかかった。
そのままぐっと先生の方に引き寄せられた私の顔は、衝突事故を起こした。
事故の相手は、先生の唇……
「――――っ!」
事故、と思ったのはそれがあまりにも一瞬の出来事で、感触だとか温もりだとか、そんなことを噛みしめる暇もなかったからだ。
頭が真っ白になって目を見開く私を見て、先生が苦笑しながら言う。
「……小夜子のことがあったのに、性懲りもなくきみに恋をした僕を、軽蔑しますか?」