金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「しないよ、勉強ならどこだってできるし、有紗が近くにいてくれた方が心強い」
「……そっか、わかった。正直千秋と高校も一緒に行けるとは思ってなかったから嬉しい!」
ぱっと表情の明るくなった有紗。
その笑顔に、私の心は少しだけ軽くなった。
高校生になったら、岡澤の記憶なんて全部抹消して、新しい自分になろう。
勉強して、友達をたくさん作って、そして恋もして、うんと幸せになるんだ。
「――――あ、タンポポ」
ふいに、有紗が空き地の方を向いた。
辺りはすっかり暗くなっていて、私にはその花がどこにあるのかわからない。
首を傾げる私のために、有紗はそこに近づいて「ここ」と指さした。
「あ……ほんとだ」
街灯の明かりも届かないその場所で、タンポポは花を閉じてひっそり眠っていた。