金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

――あたたかな先生の腕の中で目を閉じた私は、ずっと、別の世界にいる彼女に呼びかけていた。



……小夜子さん、聞こえますか。


あなたはもしかしたら海の底で今でも、恩田先生を愛し続けているのかもしれません。


先生だって、きっともっと、あなたを愛したかった。


けれど先生を手放したのは、他でもない、小夜子さん、あなたです。


こっちの世界では、時間も人の心も、生きて、動いています。


生きている人は、とても弱い。


先生がどれだけ苦しんだか知っているなら、先生が私を選んだこと、許してあげて欲しい。


一人であなたを愛し続けるのは、あなたを失い続けるのと同じです。


それに耐えられずに、誰かの手をつかみたくなった先生を、どうか責めないで。


先生は、あなたを決して忘れない。


だから、私に先生を抱き締めさせてください。


愛させてください。


一緒に、生きていくことを……


許してください。



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