金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
帰りの車の中でも、先生は私の手をずっと握っていた。
「……運転、片手だと危なくないですか?」
「危ない、かもしれない」
「え……と…じゃ、放しましょう?」
「いやです。だってもうあと少ししか一緒に居られない」
赤信号で止まった時に、そんな台詞を真顔で言われた私は心臓をわしづかみにされてしまった。
こんな時、大人同士だったら「帰りたくない」なんてわがままが通用するのかもしれないけど……
私は子供で、先生は大人で……
それになにより、私たちは生徒と教師。
先生はきっと寄り道もせず真っ直ぐ、私を家に送り届ける。
はぁ、とため息をつく私を横目で見て、先生が言った。
「疲れましたか?」
「いえ、平気です」
「寂しいですか?」
「……………………」
寂しい、と言ってしまったら余計に寂しくなる気がして、私は黙り込む。