金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
有紗が宣言し終えたところで、部屋がノックされた。
お母さんの持ってきたお盆の上には、二人分のアイス。
「熱あっても、これなら食べられるよね?」
「うん、ありがとう。美味しそう……」
身体を起こしてアイスを食べながら、有紗といろんな話をした。
だけど、先生とのことだけは話せない。
これから、もっともっと、有紗に話せないことが増えていくのかな。
仕方のないことなのかもしれないけど、やっぱり寂しい……
――風邪の治ったころには夏休みは残り少なくなっていて、その貴重な時間は両親の実家に帰省するために潰れた。
私だけ留守番してもいいかと聞いてはみたけど、祖父母が私に会えるのを楽しみにしているからとそれは却下された。
先生の連絡先は知らないから、風邪のことも帰省のことも伝えられずに……
私はそのまま一度も先生に逢うことなく、夏休みを終えた。