金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

「――みなさん、有意義な夏休みを過ごせましたか?」



新学期。先生は特に変わった様子もなく私たちの前に立っていた。

あの日のことが全部夢だったんじゃないかと思ってしまうほど、いつも通りの表情やしぐさで。


だけど……



「恩ちゃんは、彼女とどっか行ったんですかー?」



お調子者の男子が先生にそんなことを聞くものだから、私の胸はドキンと大きく跳ねた。


先生、なんて答えるんだろう……



「一度だけ、海に行きました。でも、それから逢ってくれないんです。僕は振られてしまったんでしょうか……」



しょんぼりと呟く先生の姿に、クラスは明るい笑いに包まれた。



「元気出せよ恩ちゃん、次がある」


「あたし、慰めてあげます!」



そんな冗談が教室を飛び交う中、私だけが唇を噛んで下を向いていた。


みんなの前でそんなこと言わなくたっていいのに……

私だって逢いたかったけど、どうしても逢えなかったんだもん……


早く先生に説明して、誤解を解かなきゃ……


< 187 / 410 >

この作品をシェア

pagetop