金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「――みなさん、有意義な夏休みを過ごせましたか?」
新学期。先生は特に変わった様子もなく私たちの前に立っていた。
あの日のことが全部夢だったんじゃないかと思ってしまうほど、いつも通りの表情やしぐさで。
だけど……
「恩ちゃんは、彼女とどっか行ったんですかー?」
お調子者の男子が先生にそんなことを聞くものだから、私の胸はドキンと大きく跳ねた。
先生、なんて答えるんだろう……
「一度だけ、海に行きました。でも、それから逢ってくれないんです。僕は振られてしまったんでしょうか……」
しょんぼりと呟く先生の姿に、クラスは明るい笑いに包まれた。
「元気出せよ恩ちゃん、次がある」
「あたし、慰めてあげます!」
そんな冗談が教室を飛び交う中、私だけが唇を噛んで下を向いていた。
みんなの前でそんなこと言わなくたっていいのに……
私だって逢いたかったけど、どうしても逢えなかったんだもん……
早く先生に説明して、誤解を解かなきゃ……