金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「あの、先生……ここ、学校……」
おずおずと顔を上げてみると、先生は目を細めて私を睨んでいた。
「離してほしければ、一度も会いに来なかった理由を僕が納得するように述べてください」
……先生、本気で怒ってる。
だけど私の話も聞かずにそんな態度、ちょっとひどいと思う。
「――先生に、風邪をうつした方がよかったですか?」
わざと意地悪な言い方をしてみると先生は驚いた表情になり、腕の力を緩めて私を解放してくれた。
「……もう、平気なんですか?」
「はい。一週間寝込んで、その次の週は祖父母の家に行っていました。だから……逢いたくなかったわけじゃないんですよ……?」
今度は、私が先生をにらむ番。
先生は眉毛を下げて困ったような顔をした後で、私の頭に大きな手を置いた。
「ごめん……どうして僕はこう、余裕がないんだろう」
自分に呆れたように言う先生に、私はこう言った。
「先生はきっと、もう独りになりたくないんですよ……私は、そんな風に必要とされるのが嬉しいから大丈夫です。たくさんわがまま言ってください」