金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「参ったな……これじゃどっちが年上なんだかわからないですね」
先生がふっと笑った瞬間、次の授業開始のチャイムが鳴り始めた。
「あ、いけない!次音楽だった」
「ごめんなさい、僕を言い訳に使って構いませんので、急いで音楽室へ」
「言い訳って……?」
「恩田先生に雑用を頼まれていたとでも言えばいいんです。間違っても抱き合ってたと言ってはいけませんよ?」
「……言いません!」
くるりと踵を返して、私は音楽室へ急いだ。
久々に先生に逢えただけでも嬉しいのに、まさか学校で抱き締められるなんて思っていなかったから、油断すると口元が緩んでしまう。
授業に遅れてるんだから、こんなにへらへらしてたら駄目なのに……
私はぺちぺちと頬を叩いてから、音楽室の扉に手をかけた。