金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
答えを聞いても冴えない表情のままうつむく私に、先生はこっそり耳打ちをした。
「僕はね、仕方がないこととはいえきみが土居くんや杉浦くんと一緒の班だということの方がよっぽど気がかりなんです。だから……そんなに心配しないで?」
一瞬にして熱くなった私の耳。
高鳴る胸を押さえながら先生を見上げると、いたずらっぽく笑う瞳と目が合う。
「今回僕たちが泊まるホテルにはプライベートビーチが付いているので、空いた時間は海で好きなだけ泳げるのですが……絶対に約束して欲しいことがあります」
「約束……?なんですか?」
「きわどい水着を着ないこと」
そう言った時だけ、すこし厳しい顔を作って見せた先生。
私は、自分の持っている水着のレパートリーを思い出してみる。
別に取り立てて露出が多いものは持っていないけど……
「持ってるの、ビキニしかない、です……」
「それは困りましたね……かといって学校指定の水着を着せるわけにもいかないし……」
先生が腕を組んで真剣に悩み始めてしまった頃、各班がそれぞれ決めた体験学習を黒板に書きにやってきた。
……時間切れ、か。
私は何事もなかったかのように自分の班に戻り、席に着いた。
うちの班の体験学習は、シュノーケリングに決まっていた。