金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

教室の扉が開く音がした。

私は、顔を窓の方へ向けたままで一瞬だけ身体を硬くする。



「おはようございます。二年B組の担任になりました、恩田秋人(おんだあきひと)と言います。
前のクラスでは恩ちゃんと呼ばれていましたので、みんなも良かったらそう呼んで下さい」



恩田はきっと、にこりと笑ったんだろう。

教室の所々から、格好いいね、とか、その言葉の代わりに発せられた熱っぽい吐息が聞こえた。


……誰が呼んでやるものか。


そう思っているのはきっと教室で私だけだ。


恩田は、若くて、格好良くて、優しくて、校内一人気のある男性教師だ。

担当教科は国語。

生徒の大半が苦手な古典も、恩田の授業ならわかりやすいと、教師の間での評判もいい。


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