金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
しばらくぼうっとしていると、突然部屋の扉がノックされた。
「はい」
目元をごしごしとこすって返事をすると、「恩田です。三枝さんはいますか?」という声が扉の向こうから聞こえたので、私は慌ててドアノブに手をかけた。
「ほかの二人は外に居るのにきみの姿だけ見えなかったから、どうしたのかなと思って……」
「あ、ええと、ちょっと疲れたので休んでいただけです。もう、元気になりました」
「それならよかった。……じゃあ、僕はこれで」
「え……?」
もう、帰っちゃうの?思わず、そんな表情をしてしまった。
でも、仕方ないよね……こんなところ、誰かに見られたら大変だし。
帰って欲しくないけど、我慢しなくちゃ……
「そんな顔をされると、必死で我慢してたものが吹っ飛んでしまいます。そうだな……一分だけ、部屋にお邪魔してもいいですか?」
私が「はい」という前に先生は部屋に入ってきていた。
そして扉の閉まる音を聞いたときはすでに、私は先生の腕の中だった。