金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
ずっと触れたかった温もりに包まれて、心に安心感が広がる。
けれど一分というのは思った以上に短い時間で、ふっと熱が離れた瞬間にどうしようもない切なさに襲われた。
「充電完了……には程遠いですが、これでまた少し頑張れそうです」
先生はそう言って、にっこり微笑む。
「でも……ここでは空も海も風も僕を責めている気がして、正直立っているだけでかなり体力も精神力も奪われてしまうんです。
だからこうして時々……きみにパワーをもらいに来ていいですか?」
私は返事をする代わりに、先生にもう一度ぎゅうと抱きついた。
パワーなら、いっぱい、あげます。
だから私を見失わないで。
先生が過去に飲み込まれそうになったら、私が助けるから……
先生はそんな私の髪を優しく撫でながら、しばらくそのままでいてくれた。
約束の一分はとっくに過ぎて、先生が出て行ったのは十分後のことだった。