金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「――杉浦、三枝来たぞ」
土居くんが、話をそらすように後ろの彼に声をかけた。
ゆっくり立ち上がった杉浦くんは、身長は私と同じくらいだったけれど身体がすごく華奢。
さっき見えなかった顔は女の子みたいに可愛らしくて、黒目がちの瞳はか弱い小鹿を連想させる。
「あの……三枝さん」
「は、はい!」
急に名前を呼ばれて、緊張しながら返事をした。
学校には来れなくても、せっかく来れた修学旅行だ。
何か変なことを言って、杉浦くんを傷つけたらいけない……
「写真のこと……ごめんなさい。許可も取らずに勝手に……」
「あ、ううん。解ってくれたならもういいの」
「それと……あの、三枝さんは……」
何か私に聞きたそうなのに、その先は口ごもる杉浦くん。
話し出すのを待ちたかったけれど、すぐにインストラクターの先生が来たために、話はそこで終わりになってしまった。