金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
ウエットスーツに身を包み、足にフィンをつけ、大きなマスクで呼吸をしながら入った海は、外から見る海とはまた違った、神秘的な空間だった。
浅瀬の方には魚の姿はあまりなく、水の透明感とサンゴの美しさに感心はしたものの、こんなものか、と思っていた。
けれど……そんなものではなかった。
ゆったり進んで海の深い部分に差し掛かると、目の前にカラフルな魚たちが自由に、優雅に、踊るように泳いでいた。
みんな、息をするのも忘れたようにその光景に見とれている。
私も、同じ。地球上にこんなにきれいな場所があるんだって知って、感動していた。
だけど、ある瞬間にふと……小夜子さんのことが頭をよぎった。
この海のどこかに、彼女の亡骸が沈んでいる……
そう思ったら急に怖くなって、私は班員を無視してひとりで陸に上がろうと慌てて方向を変えた。
でも、泳いでも泳いでも海に引っ張られる気がして、私はもがいた。
小夜子さんはやっぱり、私を許してくれないのかもしれない……
そんなことを思いながら、私の意識は海の青さに支配されながら深く深く、沈んでいった。