金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

――目を覚ました時に側に居たのは、泣きそうな顔の有紗だった。



「千秋!よかったぁ……どこもなんともない?」


「うん……ここ、どこ?」


「病院。千秋、海で溺れて救急車で運ばれたんだよ?」



溺れた……ああ、私、シュノーケリングの最中にパニックになって……



「――渡瀬さん。ちょっと、席を外してもらえますか?」



有紗の後ろから、先生の声がした。

すると私がその姿を確認する前に、有紗が先生の居ると思われる方に近づき、こう言った。



「……いやです。先生、二人になったらまた千秋を傷つけるでしょ」



有紗……何を言ってるの?


ベッドの上で上半身を起こして、二人の姿を確認する。

二人は向かい合って立ち、有紗が怖い顔で先生を睨んでいた。


いつもは親しげに“恩ちゃん”と呼ぶ有紗が、“先生”と他人行儀な呼び方をしていることから、本気で怒っているのだということが窺えた。


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