金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

「……ごめんね。大切な思い出を作るための修学旅行で怖い思いをさせるなんて、担任失格です。
でも、僕も怖かった……きみまで海に奪われてしまったら、どうしようって……」



ああ……私、先生に絶対させてはいけない心配をさせてしまったんだ。

海で溺れるだなんて、先生の傷をえぐるようなものじゃない……

でも、ぎゅうっと胸が締め付けられるのと同じくらい、生きていてよかったとも思えた。



「先生……私、ちゃんと、ここに居ます」


「うん……よかった。本当に」



先生は噛みしめるようにそう言うと、まだ納得してない班員のみんなをかき分けて、病室のドアに手をかける。



「……逃げんのかよ。まだ質問に答えてもらってないんだけど」



憮然とする土居くんに、先生は穏やかな笑顔でこう返した。



「ええ、今は逃げます。大人ってずるいでしょう?………担当医を呼びに行ってきます。目を覚ましたらすぐ教えるように言われていますので」


「待てよ――――」



土居くんの声を絶ち切るように、先生は部屋を出ていった。

土居くんや有紗には悪いけど、私は少しほっとしていた。

みんなに責められて、先生が私とのことを終わりにしたくなったらどうしようって思っていたから……


でも、きっと私と先生の関係が普通じゃないってことはみんな気づいた。


どうしよう、隠し通せるの……?


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