金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「あの夜の、小夜子は……きみだったんですね?」
私の痛みを察して、自分まで痛そうな顔になる先生。
それだけで、私の傷は薬を塗られたみたいに柔らかなもので覆われた気がした。
「ごめんなさい……先生をがっかりさせたくなくて、小夜子さんの振りなんて……」
「……謝らないで。きみは僕を傷つけまいとする優しさでそうしたんでしょう?謝らなければいけないのは、僕の方です。僕は急に目の前に現れた小夜子を失いたくなくて、きみを傷つけるようなことを言いました」
先生の瞳が、後悔の色を浮かべていた。
後悔してくれているのは、素直に嬉しい。だけど……もしもあの小夜子さんが本物だったなら、先生は私より彼女を選ぶんだろうなという劣等感は消えない。
「私……先生が思うより、弱くて、ずるい人間です」
それだけは、理解してほしい。
私だけを見て、私だけを愛して、私だけに優しくしてと願う、ただのわがままな女の子なんだよ。
「もしもまた、同じようなことが起きたら……その時はもう、先生のそばに居られない。だけど……」
私は、先生をまっすぐ見つめた。
それでも、好きだから。
心が先生を求めているから。
「もう一度……先生を、信じてみてもいいですか?」