金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

「そうだ、渡したいものがあるんです」



身体を離した先生が、そう言って肩から下げているショルダーバッグを漁る。



「渡したいもの……?」


「僕は海に近づく体験学習の引率は避けていたので、代わりに色んな班とアクセサリー作りを体験してきました。その時作った中で、一番出来のよかったのをきみにあげようと思って」



鞄から小さな紙袋を探し当てた先生は、その中からペンダントを取り出して私に手渡した。

クリアな青色のペンダントトップは、雫のような形をしている。



「琉球ガラスのペンダントです。本当はハート形にしたかったのですが、周りの生徒に何を言われるかわからないので、涙型にしました。涙型には、悲しみを癒すという意味があるそうですから、お守りにして下さい」



悲しみを、癒す……か。

私はガラスの雫を、陽の光にかざした。沖縄の力強い日差しを反射して、キラキラ輝く。



「すごく綺麗……大切にします」


「うん。でも、家にしまいっぱなしは寂しいから、毎日つけてもらえると嬉しいんだけどな」


「毎日……?でもうちの学校、アクセサリーは禁止ですよ?」


「チェーンを長くして、ワイシャツの襟に隠せばばれません」


「……いいんですか、先生がそんなこと言って」


「よくはありません。だからくれぐれも、見つからないように」



先生が片目をつぶって悪戯っぽく笑うので、私もつられて笑顔になった。


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