金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
キンモクセイ
先生の着るグレーのジャケットから金木犀の香りがすると気づいたのは、修学旅行から一週間が経った放課後のことだった。
「いいにおい……あの庭、今が満開ですか?」
二人きりの教室で、人目を気にしながらの短い抱擁を終えたあとで、私は尋ねた。
「うん。今年は特に花をたくさん付けているから、家の中まで香りが漂ってきます」
「いいなぁ……うち、金木犀は庭にないんですよね」
私は、あの香りが大好きなんだけど……少し強すぎるからって、お母さんはあまり好きじゃない。
「……香りを堪能しに、来ますか?」
「え……?」
「うちに来ませんかと、誘っているつもりです」
照れたように言う先生に、私の心臓は大きく跳ねた。
「あ、あの……それは、いつ……」
目的は、あくまで金木犀。だから別に変な意味じゃないのに……私の喉からは上擦った声しか出ない。