金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

緊張していると日々はあっという間に過ぎてしまうもので、心の準備ができないまま迎えた日曜日、私は約束の午後に先生の家の前に立っていた。


先生にリクエストされたプレゼントがお気に召すとは限らないと心配した私は、昨夜のうちに焼いたクッキーも持ってきた。


服装も、気合いを入れてワンピースだし、学校に行くときよりはちゃんとメイクもした。

ただのデートなら、準備は完璧なはずだけど……


家を出たときより緊張しているのは、鼻をくすぐる甘い香りのせいだろうか。

嗅ぐだけで、先生に抱き締められているような錯覚に陥ってしまう。



「――――いつまでそうしているんですか?」


「わっ!!」



いきなり開いた玄関のドアから、先生が苦笑しながら顔を出した。

びっくりさせないでよ、もう……



「二階の窓からずっと眺めてましたが、いつまで経ってもチャイムを押しそうにないので、迎えに来ました」



ずっと見ていたなんて……

私はすぐに迎えに来てくれなかった先生を、少し恨んだ。


< 241 / 410 >

この作品をシェア

pagetop