金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「もしも……もしも自分が思うより怖くて、止めて欲しいと思ったらちゃんと言います。でも、だからって先生を嫌いになったりしないし、ましてや目の前から消えたりしません……
だから……私は今日、先生のものになりたいです」
私は先生の目をまっすぐに見つめて言った。
先生が不安そうだと自分が強くならなきゃって思うからなのか、先生にそう言ったことで私の中に変化が起こり、心の準備も整った気がした。
「……ありがとう。とりあえず、お茶を飲もう。こう見えて僕も緊張していて、喉がからからなんです」
安心したように微笑む先生を見て、私も安心した。
いつもそんな風に笑っていて欲しい。
先生を悩ますすべてのことを、私が癒せればいいのに……
「――これは、バラの花?」
クッキーの箱を開けた先生が、私に訊く。
「はい、一応……ちゃんとバラに見えますか?生地をくるくる巻いただけなんですけど」
「立派なバラですよ。食べるのがもったいない」
「そんな、大したものじゃないです!……それに、先生のためならまたいつでも焼きますから……」
言ってる途中から恥ずかしくなってきて、最後の方は声が小さくなってしまった。
それでも先生はちゃんと聞いてくれていたみたいで……
「ありがとう……千秋」
そう言って、私に優しい眼差しを向けた。
初めて……名前で、呼んでくれた。
嬉しくて、少し恥ずかしくて……でもやっぱり、嬉しい。