金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
リビング、と言うより居間と言った方が正しそうな、畳の部屋に通された私は、昔風のちゃぶ台の前に、正座した。
部屋を見回すと、タンスや鏡台などの家具も年期が入ったような色合いで、一言で言えば“おばあちゃんち”みたいな部屋だと思った。
「――障子を開けましょう、金木犀が見えますよ」
後から部屋に入ってきた先生が、お盆に乗せた二人分の紅茶と私の作ったクッキーをちゃぶ台に置いて、窓に面した障子を開けた。
「わぁ……」
庭の角に高く背を伸ばした金木犀の木は、本当に今が花ざかりだった。
陽の光でオレンジにも黄色にも見える小さな花は、折り重なってまるで実をつけたようにも見える。
そして、私の鼻が手繰り寄せたのは、大好きな甘い香り。
「窓、閉まってるのに、香りがする……」
「贅沢な家でしょう。建物は古いですけど、この庭は本当に気に入ってるんです」
言いながら、先生は私の隣に腰を下ろした。
テーブルが小さいし丸いから、距離が近く感じてまた緊張が蘇る。