金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
先生が、私の耳元でため息をついた。
そのくすぐったさに肩を竦めていると、いつもより少し上擦った先生の声が、今度は私の心をくすぐる。
「……思春期だったら、暴走してます」
「先生……」
それは、こんな子供の私でも、先生にとっては魅力があるってこと……?
……嬉しい。
それに余裕のない先生は、少し可愛い。
「でも、もう29だし……きみの前では格好つけたいので、なんとか暴走しそうなのを抑えているところです」
何かと葛藤するように呟く先生がおかしくて、私はクスリと笑った。
先生の歳は今初めて知ったけれど、目の前に居るのはまるで同い年の男の子のようだと思った。
ついさっきまで、自分と先生を隔てる年の差で悩んでいたはずなのに、不思議……
「……先生」
私は先生の首にしがみついて、その唇に自分から唇を押し付けた。
驚いて目を丸くする彼に、私は告げる。
「……先生が好き。大好きです」
口に出さなければいられないほど、気持ちが溢れて止まらなくて……
表情が固まったままの先生に、もう一度触れるだけのキスをした。
それがきっかけになったように、先生が私の身体に覆い被さってきた。