金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「――――どうしよう、この香りを嗅いだらきっと毎日きみを思い出してしまいます……」
汗ばんだ身体を畳に横たえて、私に腕枕をしながら先生が嘆く。
「……思い出してくれたら、私は嬉しいですけど」
単純にそう思って先生を見上げた私に、先生は苦笑する。
「思い出した時に、千秋が手の届くところに居ないのでは切なすぎます……きっと思い出すのはきみのことだけじゃなく、きみとこうした記憶でしょうから……」
そう言って、優しく私の髪を撫でる先生。
そっか……私が逆の立場でも、毎日この場所でひとり、この香りに包まれるのは結構つらいかもしれない。
先生に逢いたくなって、触れたくなって、どうにかなってしまうかも……
「そういえば……今、思い出したんですが」
「…………?」
「きみは、僕の生徒でしたね。こんなことして、許される筈のない」
内容に全くそぐわない、呑気な声で先生が言った。
その言葉を聞いて、私も先生に負けず劣らず呑気に当たり前のことを思った。
そういえば先生って……
私の担任なんだっけ。