金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「こ……こんにちは」
とりあえずは、挨拶。そう思ってぺこりと頭を下げると、先生が力なく呟いた。
「天使と悪魔が同時に来てしまいました……」
「……秋人。こんな可愛い子に向かって悪魔はないんじゃないの?彼女、教え子?」
「自分を天使だと信じて疑わない姉さんの性格がときどき羨ましいですよ。……千秋、おいで」
お姉さんの前で“千秋”と呼ばれたことにどきまぎしながらも、二人の立つ玄関ポーチまで歩いた。
先生が、私の頭の上に手を置きながらお姉さんに言う。
「詳しいことは中で話しますが……彼女は、僕の大切な人です」
先生……
いいのかな、そんな簡単に話してしまって。
お姉さんは先生によく似た――けれどアイラインやマスカラで先生よりもくっきり大きく見える瞳をぱちぱちさせて、私たちを交互に見つめたあと口を開いた。
「秋人……あんた」